ヨウイチ・ヒルマは地味な生徒だった。
日本人らしい黒目黒髪に、透き通るような白い肌。男とは思えないほど華奢な骨格に、細く長い繊細な手指。
それでも貧弱というわけではなく、体育の授業では程よくついた筋肉が躍動する様が認められた。
悪いわけではない運動神経。けれど、時たま膝を抱えて蹲る時があった。
二年の4月という中途半端な時期から転入してきた日本人生徒。
聞けば、年齢は一つ下の16らしかった。
編入試験の成績が良かったために、たった一年ではあるが飛び級の扱いとなったそうだ。
入ってきて早々、余りに東洋風でナードの典型と云わんばかりの外貌に、すぐに苛めの対象にされた。
クリフォード自身が直接手を下しているわけではなかったが、取り巻きの連中はいい遊び道具を見つけたとばかりにヒル魔を苛めた。
無視、村八分、言葉や肉体的暴力etc.…ジョック・ナードヒエラルキーが確立されたアメリカのハイスクールで、ヒル魔の存在は恰好の標的だった。
ナード、ルーザー、ギーク。
ヒル魔を表す言葉はヒエラルキーの下段のものばかり。
どんな扱いを受けようが何処吹く風の体であるのも苛める側からすれば面白くないらしく、それはエスカレートして行った。
クリフォードはただ興味がなかっただけだが、取り巻きたちの行動を咎めるでもなくただ見ていただけなのだから、同罪ともいえるだろう。
ただ一人、ジョックに分類される者の中でバッドだけは、ヒル魔をとても気にかけているようだった。
何故だか分からない、けれどヒル魔に構いたくなるのだ、と。
長い夏休み(その間フットボールチームはサマーキャンプがあるのでオフではないが)を経て、新学期が始まってから事が動いた。
ハイスクールリーグ、対NASA高校。
クリフォード等がバスを降りると、少し離れた位置にNASA高校のバスも到着したところだった。
扉が開き、馬鹿力クオーターバックのホーマーが降りてくる。
扉の先に何か見つけたのか、相好を崩し太い腕を挙げて挨拶する。
ステップを下り終えると、小走りに目的の人物に抱きついた。
「ヒル魔、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ケケケ、見ての通りだ糞髭ロン毛。」
「ったく可愛くねーな!髪は黒いし下りてるし、一瞬誰かと思ったぜ。……膝はどうだ?」
「別に?どうとも。」
「今度こそ10点差つけて勝つからな!首洗って待っとけよ!」
「ケケケ、どうぞご勝手に。俺はフットボールチームには所属してマセンから。」
「……ハァアアア?!なんだって?」
そのやりとりの一部始終を見ていたのはクリフォードだけだろう。
やめた、つったろ。いやでも選手は無理でもオフェンスコーディネーターとか、アナライジングとか、いくらでもやりようがあるじゃねーか。ケケケ、こんな名門で俺がやるポジションなんてねーよ。嘘つけ…じゃあなんで、フットボールチームがある高校にしたんだよ、なんでわざわざクリフォードやバッドが居る強豪校にしたんだよ!何があっても、死んでもプロになって、スーパーボウルリング手に入れるっつってたじゃねぇか!
半ば泣き叫ぶように言うホーマーに、ヒル魔はひと言、「うるせぇよ。」と言っただけだった。
その試合は、圧倒的な力の差を見せ付ける形で、NASAの黒星に終わった。
整列し、選手同士が握手を交わす。
前にホーマーを見据えてクリフォードは、先程の場面を思い出していた。
「あの日本人…ヨウイチ・ヒルマは、フットボールをやっていたのか?」
「あぁ…知らなかったのか?日本の、泥門デビルバッツっていうチームで、去年雑誌の企画でNASAと戦ったんだ。無名のルーキーチームだったけど、あと少しで負けるところだった。スゲェいいチームだったけど、試合中にヒル魔が膝をやっちまって…あとはもう知ってるだろ。アメリカのハイスクールに転校してきて、フットボールとは無縁の生活らしい。」
「ポジションは?」
「QBだ。身体能力はイマイチだけど、技術と作戦はずば抜けてた。今は黒髪だけど、その頃は金髪に抜いてて髪も逆立ててて、悪魔の策士なんて呼ばれて…いい選手だったよ。ウチの監督も、ワットも、ゴンザレスたちも
、みんな惜しんでる。」
その夜、クリフォードは泥門デビルバッツの試合を見ていた。
ホーマーは無名だと言っていたが、本国ではルーキーチームながら関東大会決勝まで行ったとあってかなり話題になっていたようだ。そのお陰で容易に映像を得る事が出来た。
ディフェンスは穴だらけだが反するように精密な裏をかくオフェンス。
トリックスター、悪魔の策士に相応しいその外見、チューインガムに銃と言うアイテム。
そして何より、ヒル魔はとても幸福そうであった。全身全霊でフットボールを楽しんでいた。
最後の試合、関東大会決勝。
峨王の強烈なサックに、ヒル魔がフィールドに沈んだ。
膝から下が、横に折り曲げられるような―――。
声も出せないヒル魔の代わりに、巨体のセンターが天に向かって慟哭した。
クリフォードは思わず口元を覆った。
一目見て、選手生命を絶たれたと分かった。
コイツから、それを取り上げるのか?
ヒル魔から、フットボールを。
クリフォードはブラウザを閉じると、キングサイズのベッドに横たわった。
閉じた目蓋の裏には、金髪と黒髪のヒル魔が交互に映っていた。
土日の休日を挟んで、月曜。
朝からクラスルームは騒然としていた。
キング・オブ・ジョックスと名高い学園の帝王クリフォードが、苛められナード、ヨウイチ・ヒルマの前に立ち塞がっていたからだ。
座ったまま目もくれないヒル魔に、クリフォードは立ったまま言い放った。
「チームに入れ。」
「何のデスカ?」
「フットボールだ。」
「嫌だね。」
「依頼じゃねぇ、命令だ。」
「ホーマーか?知ってんだろ、俺はやめたんだ。もう1ミクロの興味もねぇよ。」
「嘘を吐くな。」
「嘘じゃアリマセン。」
「テメーのポジションはオフェンスコーディネーターだ。ベンチから俺にサインしろ。」
「言っただろ。もう1ミクロの興味もねぇ。それに、もう間に合ってんだろ。」
「テメェこそ分かってるはずだ。テメェのセンスが一番俺に近い。今のコーディネーターには、俺がQBのときだけ別のポジションに移ってもらう。」
「どう言われようがやらねぇよ。お気遣いアリガトウゴザイマシタ。」
二人の会話を、クラス中が注目していた。
ヒル魔はその視線を意にも介さず、立ち上がり廊下へ出ようと歩き出した。
「俺を使え。俺の身体で、テメェがフィールドに立てばいい。テメェの夢全部、俺が引き受けてやる。」
ヒル魔はドアの手前で立ち止まった。
タイミング悪く、ガラガラとバッドが外からドアを開いた。
「え、ちょっ…ヒル魔?ど、どうしたんだよ泣くなよ!」
どれだけの苛めに合おうと泣き言の一つも零さなかったヒル魔は、今クリフォードの言葉に涙していた。
あぁもう泣くなって、言いながらバッドがヒル魔の泣き顔を自分の肩へと押し付ける。
自然、柔らかくヒル魔を抱き締めるような形になって、クリフォードは美味しいとこだけ持ってきやがって、と憮然とした。
パラレルいじめっ子×いじめられっ子inアメリカンハイスクール。
この時点で寧ろホマヒル(もしくはバドヒル)の匂いがプンプンします…汗。
飛び級で無理矢理同じ学年にしちゃったので原作とイベントが一年ずれてます。
あんまり細かい設定とか考えてませんが、ヒル魔さんが一年のときに原作の一連のイベントが起こった、と考えていただければどうにか。
でも書いてから、ヒル魔さんなら選手生命が絶たれてもバッツを捨てることはないよな、と元も子もないことを思ってしまいました。
やっぱパラレルとはいえ設定自体無理あった。(涙)
なんか日記のネタっていうよりssの長さになっちゃった…。
日本人らしい黒目黒髪に、透き通るような白い肌。男とは思えないほど華奢な骨格に、細く長い繊細な手指。
それでも貧弱というわけではなく、体育の授業では程よくついた筋肉が躍動する様が認められた。
悪いわけではない運動神経。けれど、時たま膝を抱えて蹲る時があった。
二年の4月という中途半端な時期から転入してきた日本人生徒。
聞けば、年齢は一つ下の16らしかった。
編入試験の成績が良かったために、たった一年ではあるが飛び級の扱いとなったそうだ。
入ってきて早々、余りに東洋風でナードの典型と云わんばかりの外貌に、すぐに苛めの対象にされた。
クリフォード自身が直接手を下しているわけではなかったが、取り巻きの連中はいい遊び道具を見つけたとばかりにヒル魔を苛めた。
無視、村八分、言葉や肉体的暴力etc.…ジョック・ナードヒエラルキーが確立されたアメリカのハイスクールで、ヒル魔の存在は恰好の標的だった。
ナード、ルーザー、ギーク。
ヒル魔を表す言葉はヒエラルキーの下段のものばかり。
どんな扱いを受けようが何処吹く風の体であるのも苛める側からすれば面白くないらしく、それはエスカレートして行った。
クリフォードはただ興味がなかっただけだが、取り巻きたちの行動を咎めるでもなくただ見ていただけなのだから、同罪ともいえるだろう。
ただ一人、ジョックに分類される者の中でバッドだけは、ヒル魔をとても気にかけているようだった。
何故だか分からない、けれどヒル魔に構いたくなるのだ、と。
長い夏休み(その間フットボールチームはサマーキャンプがあるのでオフではないが)を経て、新学期が始まってから事が動いた。
ハイスクールリーグ、対NASA高校。
クリフォード等がバスを降りると、少し離れた位置にNASA高校のバスも到着したところだった。
扉が開き、馬鹿力クオーターバックのホーマーが降りてくる。
扉の先に何か見つけたのか、相好を崩し太い腕を挙げて挨拶する。
ステップを下り終えると、小走りに目的の人物に抱きついた。
「ヒル魔、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ケケケ、見ての通りだ糞髭ロン毛。」
「ったく可愛くねーな!髪は黒いし下りてるし、一瞬誰かと思ったぜ。……膝はどうだ?」
「別に?どうとも。」
「今度こそ10点差つけて勝つからな!首洗って待っとけよ!」
「ケケケ、どうぞご勝手に。俺はフットボールチームには所属してマセンから。」
「……ハァアアア?!なんだって?」
そのやりとりの一部始終を見ていたのはクリフォードだけだろう。
やめた、つったろ。いやでも選手は無理でもオフェンスコーディネーターとか、アナライジングとか、いくらでもやりようがあるじゃねーか。ケケケ、こんな名門で俺がやるポジションなんてねーよ。嘘つけ…じゃあなんで、フットボールチームがある高校にしたんだよ、なんでわざわざクリフォードやバッドが居る強豪校にしたんだよ!何があっても、死んでもプロになって、スーパーボウルリング手に入れるっつってたじゃねぇか!
半ば泣き叫ぶように言うホーマーに、ヒル魔はひと言、「うるせぇよ。」と言っただけだった。
その試合は、圧倒的な力の差を見せ付ける形で、NASAの黒星に終わった。
整列し、選手同士が握手を交わす。
前にホーマーを見据えてクリフォードは、先程の場面を思い出していた。
「あの日本人…ヨウイチ・ヒルマは、フットボールをやっていたのか?」
「あぁ…知らなかったのか?日本の、泥門デビルバッツっていうチームで、去年雑誌の企画でNASAと戦ったんだ。無名のルーキーチームだったけど、あと少しで負けるところだった。スゲェいいチームだったけど、試合中にヒル魔が膝をやっちまって…あとはもう知ってるだろ。アメリカのハイスクールに転校してきて、フットボールとは無縁の生活らしい。」
「ポジションは?」
「QBだ。身体能力はイマイチだけど、技術と作戦はずば抜けてた。今は黒髪だけど、その頃は金髪に抜いてて髪も逆立ててて、悪魔の策士なんて呼ばれて…いい選手だったよ。ウチの監督も、ワットも、ゴンザレスたちも
、みんな惜しんでる。」
その夜、クリフォードは泥門デビルバッツの試合を見ていた。
ホーマーは無名だと言っていたが、本国ではルーキーチームながら関東大会決勝まで行ったとあってかなり話題になっていたようだ。そのお陰で容易に映像を得る事が出来た。
ディフェンスは穴だらけだが反するように精密な裏をかくオフェンス。
トリックスター、悪魔の策士に相応しいその外見、チューインガムに銃と言うアイテム。
そして何より、ヒル魔はとても幸福そうであった。全身全霊でフットボールを楽しんでいた。
最後の試合、関東大会決勝。
峨王の強烈なサックに、ヒル魔がフィールドに沈んだ。
膝から下が、横に折り曲げられるような―――。
声も出せないヒル魔の代わりに、巨体のセンターが天に向かって慟哭した。
クリフォードは思わず口元を覆った。
一目見て、選手生命を絶たれたと分かった。
コイツから、それを取り上げるのか?
ヒル魔から、フットボールを。
クリフォードはブラウザを閉じると、キングサイズのベッドに横たわった。
閉じた目蓋の裏には、金髪と黒髪のヒル魔が交互に映っていた。
土日の休日を挟んで、月曜。
朝からクラスルームは騒然としていた。
キング・オブ・ジョックスと名高い学園の帝王クリフォードが、苛められナード、ヨウイチ・ヒルマの前に立ち塞がっていたからだ。
座ったまま目もくれないヒル魔に、クリフォードは立ったまま言い放った。
「チームに入れ。」
「何のデスカ?」
「フットボールだ。」
「嫌だね。」
「依頼じゃねぇ、命令だ。」
「ホーマーか?知ってんだろ、俺はやめたんだ。もう1ミクロの興味もねぇよ。」
「嘘を吐くな。」
「嘘じゃアリマセン。」
「テメーのポジションはオフェンスコーディネーターだ。ベンチから俺にサインしろ。」
「言っただろ。もう1ミクロの興味もねぇ。それに、もう間に合ってんだろ。」
「テメェこそ分かってるはずだ。テメェのセンスが一番俺に近い。今のコーディネーターには、俺がQBのときだけ別のポジションに移ってもらう。」
「どう言われようがやらねぇよ。お気遣いアリガトウゴザイマシタ。」
二人の会話を、クラス中が注目していた。
ヒル魔はその視線を意にも介さず、立ち上がり廊下へ出ようと歩き出した。
「俺を使え。俺の身体で、テメェがフィールドに立てばいい。テメェの夢全部、俺が引き受けてやる。」
ヒル魔はドアの手前で立ち止まった。
タイミング悪く、ガラガラとバッドが外からドアを開いた。
「え、ちょっ…ヒル魔?ど、どうしたんだよ泣くなよ!」
どれだけの苛めに合おうと泣き言の一つも零さなかったヒル魔は、今クリフォードの言葉に涙していた。
あぁもう泣くなって、言いながらバッドがヒル魔の泣き顔を自分の肩へと押し付ける。
自然、柔らかくヒル魔を抱き締めるような形になって、クリフォードは美味しいとこだけ持ってきやがって、と憮然とした。
パラレルいじめっ子×いじめられっ子inアメリカンハイスクール。
この時点で寧ろホマヒル(もしくはバドヒル)の匂いがプンプンします…汗。
飛び級で無理矢理同じ学年にしちゃったので原作とイベントが一年ずれてます。
あんまり細かい設定とか考えてませんが、ヒル魔さんが一年のときに原作の一連のイベントが起こった、と考えていただければどうにか。
でも書いてから、ヒル魔さんなら選手生命が絶たれてもバッツを捨てることはないよな、と元も子もないことを思ってしまいました。
やっぱパラレルとはいえ設定自体無理あった。(涙)
なんか日記のネタっていうよりssの長さになっちゃった…。
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